第25回星の郷八ヶ岳野辺山高原100㎞ウルトラマラソン サブ10(9時間45分以内)への挑戦 〜後編〜
北海道千歳空港より午前中の便に乗り、羽田空港から友人3人とレンタカーで、スタート地点の大会会場である南牧村社会体育館に16時に着き前日受付を済ませる。
スタート地点にある日本で最高標高地点 (1,375m)となる野辺山駅(JR東日本)付近を散策し、終始リラックス。
宿泊は50km離れた山梨県甲府駅前の東横インに宿泊。仲間と山梨名物ほうとうを食べ必勝を誓います。美味しかった。
翌朝2:40分にホテルを出発し、スタート会場へ
徐々に自ら気持ちを高ぶらせていく。
「これから長いようで短い旅が始まる。レース内容に拘って走り大きな経験を手にして帰りたい。このレースは通過点でしかない。」
今まで短期間ではあるが、確実にレースの度に経験値を増やし自信を強めてきた。とりわけ昨年の秋から始めたトレイルで、初めて大会に参加した2018ルスツトレイル60㎞、累積標高D+3,860mや2018房総半島横断トレイル66.7㎞、累積標高D+2,760m、今年3月に出走した2019ハセツネ30k、累積標高D+1,600mで山坂に対する不安どころか、やりこなせるという確信さえ持てる様になった。強いて不安と言えば、想定した速度でアップダウンの大きい固い舗装面の上をノンストップで走り切ることができるかということか。斜度がきついほど下りの際の脚へのダメージは計り知れない。
ただその不安を打ち消すためにこの一か月、峠走で鍛錬してきた。
大会前には毎回目標タイムや順位を明確にし、その都度の気温や体調など刻々と変化する状況を肌で捉えながら目標達成を試みるというプロセスも楽しみにしている。目標があるほどそれに向かう力が生まれ、達成した際の喜びも大きくなる。
今回の様にアップダウンが大きいとペースが掴みづらいことから、昨年の完走者のリザルトを参考にする。順位ごとに10㎞ごとのペースを見ることができるため目標タイムに近い人のデーターを分析し、自分なりの10㎞ごとのペース表を作成しそれを確認し、調整を図りながらながら走る。
スタート前はいつも冒険に行くような気持ちだ。
「走れる喜び、笑顔、感謝を最後まで忘れず、まだ見ぬゴール後の成長した自分に会いに行く。」
5:00スタート 2,287人がStart!
日の出は4:35分。背後には八ヶ岳が勇ましい姿でそびえ立つ。ゴールはこの八ヶ岳の姿を正面に捉えてゴールとなる。
「必ず俺は自分との約束を果たしここに帰ってくる。」
スタート直前はいつも不安も迷いも無い。一体自分がどんな走りをするのか。期待で胸が躍る。
50km地点からが本当の勝負所だ。それまでは1㎞当たり平地と下りは4分30秒〜5分00秒、上りは6分00秒〜6分30秒前後で息を上げる事無くリラックスして走り、とにかく下りは足の着地位置を意識しながら、膝が伸びた状態で着地しない様に心掛ける。このレースを制する最大のポイントは自分が最も苦手としている下りだ。
残雪のあるゴツゴツとした山肌の勇ましい山と、新緑と澄み渡る青空が見事に調和し心が癒される。前回の富士5レイクの大会同様に景色を眺めながら走り続ける。最高の気分だ。
走り始めて数キロは平坦だが7kmほど過ぎてからは、50〜200mのアップダウンの連続で山間の峠をひた走る。トレイルの大会でこのような道がいくつもあり経験済だ。歩いても走っても速度が変わらないほど急な傾斜が何キロかあるが決して歩かない。下りで抜かされ上りで追い抜かす。追い抜かし間際、「ここは毎年歩いて、下り勝負。ここを走るのは得策でないですよ。」と声を掛けてくる見るからにトライアスロンをやっているという風貌のアスリートランナーがいた。「何回目?ベストタイムは?今回の目標は?」と聞き返す。
「過去4回完走。今回が5回目。ベストは10時間30分です。今回も同じタイムを狙っています。」と返ってくる。
「そうですか、がんばって下さい。」と挨拶を交わし振り切る。まだ頂上まで4kmはある。自分の目標は9時間45分。自分のみを信じて前に進む。
37㎞地点で峠の頂上に立つと今度は13kmに渡り標高差700m以上のきつい下りが姿を現す。ここが自分の中で最大のポイントとしていたところ。この急登を上っている最中、後方から追随する足音が聞こえていた。どんなランナーなのか振り返ると、会話をしたあのアスリートランナーだった。
下りでは20人以上に抜かされ、当然のようにアスリートランナーも通り過ぎて行った。
地面との接地衝撃を殺しながら下りて行く。いや、45kmを過ぎるころには脚の芯まで疲労がたまり、衝撃を殺さないと力が入らなくなっていた。着地の衝撃で両足の股関節が痛む。去年の秋以降なかなか完治していないところだ。普通の人であればリタイヤするレベルかもしれない。ただ自分には諦めるという気持ちは持ち合わせていない。今後のレースを考えてリタイヤするなんて自分には到底考えられない。今やらなくていつできるのか。リベンジできる未来の保証なんてどこにも無い。
「悔いなく一日一生の思いで生きる。」
予定の下り速度5分00秒/㎞から遅れを取り始めたが、後半の脚の復活を信じて我慢の走りを続ける。
50km地点からの勝負
何の根拠も無いのだが、「上りに入ればそうそう負けない。また順位を上げれる。」そう思い走ってきた。そういう気持ちは大切だ。上りは下りと違い惰性は利かない。ましてここまでのアップダウンと距離を走ってくると根性で走る気持ちの割合が大半を占めてくる。走歴を考えるとトレーニングの距離や時間、レースの経験値は上位の選手と比べると誰よりも少ない。でもマインドに関して言えば、生きて来た年月でカウントできる。気持ちでは誰にも負けたくないし、負けないという自負がある。トレイルのレースでも雨が降り足場が泥濘になる程に、自分も番狂わせのチャンスがあるのではないかといつもワクワクする。誰しも順境な時は調子がいいに決まっている。問題は逆境の時の自分だ。この気持ちを養うためには日々小さな努力を積み上げて行くしかない。失敗してもくじけず前進し続ける不屈の精神が必要だ。
馬越峠上までの10㎞以上に渡る標高差700m以上を上り切った。この上りで立ち止る者、路側帯でうずくまる者、何人もの背中を抜いてきた。
あのアスリートランナーとは抜きつ抜かれつのシーソーゲームが続いていたが、90kmを過ぎた地点で歩いている姿を見つけた。言葉を掛けると「もう力が尽きた。」と返ってくる。
「もうサブ10は見えましたよ。10時間以内と少しでもそれを超えるのじゃ大きな違い。あと10㎞一緒に行きましょう。」
何度も振り返り、一緒に行くことを促す。もうここまできたら同士だ。
下りでかなり差を空けられた若者にも残り5㎞で追いつく。
「あと少しだがんばれ!」
「はい。サブ10だけは必ず取ります。」
ランナーにとって100kmマラソンで10時間以内をたたき出すというのは大きな夢であり、この大会で達成したならほとんどの大会をそれ以上のタイムで走れると言っても過言ではない。上位70名しか達成できないこの記録が目前に迫っている。
あのアスリートランナーは息を吹き返し、残り2㎞で姿が見えなくなった。
自分自身も彼がいたからこそ最後の力を振り絞り記録を伸ばせた。人との出会いで運命が大きく変わる。一生懸命の背中には必ず同じ意思を持った人が集まり力が与えられる。
遠くから会場のアナウンスが聞こえる。
「帰ってきた。」
ゴール
歓喜と共に、ゴール手前で張ってくれたテープを切った。
目標の9時間45分には2分52秒及ばなかった。それ以上にスパルタスロン(ウルトラマラソン250㎞)という世界上位の険しい大会に臨むには力不足を痛切に感じた。またこつこつと努力しようと思う。
次戦
第一回日光千人同心街道四十ジャーニーラン 160km
【記録】
9:47'52"
総合 52位
出走数 2,287人(男子1,956人 女子359人)
【2019 出走率、完走率表】
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