第29回チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン118km初参戦 サブ11(11時間以内)への挑戦 〜後編〜
北海道千歳空港より午前中の便に乗り、羽田空港からレンタカーで14時に会場入りし現地の確認をする。会場の人はまばらで半日後には約4,000人のランナーそれぞれの挑戦が始まるという空気感はあまりない。荷物預け場所やスタート地点などを確認しながら自らのイメージを整え、心を落ち着かせて行く。
東京から西に130kmほどのためこの時期は桜はすっかり散っているのかと思っていたが、山間で気温が低いためか見事に満開で富士山の姿も雲の隙間から時折垣間見える。予報はスタート時点では気温は5度だが、日中は21度まで上がり晴れとなっていて絶好のランニング日和になりそうだ。
宿泊は会場から5㎞、富士山駅から数百メートルにあるファミリーロッジ旅籠屋(富士吉田店)にしたが、大正解だった。宿代は近郊のホテルに比べると安い上、近くには何でも揃っており宿も綺麗で落ち着く。部屋では各地点でのレース展開をイメージをしながら補給食などの準備をし、19時に就寝する。
いつも胃腸の状態を考え、スタートの3時間前には起きて朝食を取るため午前1時に目覚ましをセットする。旅の疲れもあってか、いつに無くすぐに眠りについた。
荷物預け場には3時過ぎに到着し、北海道の仲間達とエールを交わす。
15分前にスターラインに並び号砲を待つ。
「今回の目標はサブ11(11時間以内)で総合20位内。下り坂での脚の衝撃を極力抑える走り方と、レース全般を見通しながら冷静に走る。今までやれるだけのことはやった。これはまだ夢の通過点。」
4:00start 952人が118kmの旅へ
50km地点まではその時の体調に合わせ、1㎞当たり4分30秒〜5分00秒でとにかく気持ちよく走ることを心掛け、序盤からアップダウンの連続だがとにかく焦ることなく、7割方でセーブしながら走ること言い聞かせる。
上り7km地点で予期せぬアクシデント
先頭集団で走っていたが、その先を走る人がコースを逸れて違う道を走っていたのだ。
「ごめんなさい。」と言いながらUターンしてくる。意味が解らず自分を含めた3〜4人は顔を見合わせる。
「コース ロスト?まさかだよね?」
それぞれが嘘で合ってほしいという顔をしてその場にたたずむ。
「いや、道の狭さや暗さから行ってもコースでは無いでしょう。戻りましょう。」そう言って気持ちを切り替え、引き返すことにした。往復で2km弱のロス。まだ始まったばかり。いくらでも巻き返しは利く。ただここでもう一つの重大なミスに気付いていた。
頼みの綱のGPS時計が、オートストップ機能のままで走り出してしまったことだ。道をロストし立ち止まった瞬間にアラームとともに時計が止まるのに気付いた。常に瞬間ペースと1㎞ごとのペース、今までの平均ペースを表示させながらこの数値を指標としてペース配分をするのだが、幾度となく信号機で止まらなければならないことやトイレやエイドに行く度にタイムが止まってしまうため全体の平均ペースはもう見ることができない。
問題が同時に起き一瞬困惑したが、
「これは長丁場。自分を信じて力の限りを尽くすことに集中しよう。」と自分に言い聞かせ、気持ちを静めるため少しだけペースを上げ走ることにした。今までの人生こんなことは幾度となく経験してきている。こんなことで動揺などしていられない。
10km地点位だろうか、一つ目の山中湖の湖畔に入り走行方向の斜め左から朝陽が昇り始める。右後ろには富士山が姿を現す。一番楽しみにしていた光景だ。
「全てに感謝し、沿道やエイドでの応援全員に笑顔で応対し、ありがとうと言い走り続けよう。」
序盤のロストで既に自分の今の順位がどの位なのかもわからない。ただこれを幸いに順位など忘れて気ままに走ることができる。景色を眺めながらとにかく気持ちよく走り続ける。
山中湖、河口湖を超えると56.4km地点に預けた荷物の引き取り場所がある。ここには万が一に備えてテーピングや薬やジェルなどを預けてある。ここで5分程度休む予定でいたが、体調はあまり良く無いため50km以降は5kmごとに設置されているエイドステーションで15〜30秒程度使い、水と食料補給をしその分余計な休憩はしない作戦に切り替えた。レースの中でも小さな目標や人との触れ合いが大きなパワーとなり糧となりその積み重ねにより、辛いレースもゴールに辿り着けることを今までのレースで学んできた。「感謝の気持ち」がどれだけ自分自身の力になるかということも体感している。
どの湖畔でも桜が咲き誇り、桜祭りも開催されて観光客で賑わっている。
80㎞の壁
100㎞のレースでは80㎞に辿り着くとあと少しという気持ちになり最後の力を振り絞って走る気になるが、118kmとなると先はまだまだ長い。ましてこのレースは108kmから115kmにかけて本レース最大の山場である標高差250mの急坂が待っている。10㎞ごとに現在時点での1km当たりの平均タイムを計算しながら、サブ11の目標に向けて走り続ける。日差しも強まり、息苦しさを感じるようになり80㎞を越えたあたりから急激に推進力を失ったような感覚に陥り必死で地面を蹴り前に進む努力をする。一度の諦めで数秒ずつ積み上げて来た今までの努力が全て泡となる。絶対に諦める訳にはいかない。
「ウルトラマラソンはここからが本当の勝負どころ。」
今まで距離の長いレースで中盤以降は、前後に人がいない状態で常に単独で走っていたのだが、この大会は87km以降はゴールまで、70km、100km部門のコースと同様でゴールの制限時刻はほぼ同じことから多くのランナーと交差する。道が混雑して進みにくいがその姿を見ることで勇気づけられる。
それにしてもこのコースは累積標高の数値では片づけられないほど、小刻みなアップダウンが多い。何度もこれがコース標高図での上りの開始かと思い暫く走るとまた下りになり、まだ上りは先であることを知らされる。想像以上に険しい。仲間達もまた、この同じコースをひたすらゴールを目指して激走しているのかと思うと可哀そうな気持ちになる。
100kmの到達時刻で自身の目標タイムである11時間以内に到達するには、かなり瀬戸際であることに気付いていた。でもまだ可能性は残されている。
「ここまで来たら後は力の限り最後まで走り抜く。少しの手抜きもしない。」
108㎞ 最後の壁
108kmから115kmにかけて本レース最大の山場に到達した。ほとんどの選手が歩いていたり、走っては歩きを繰り返している。ただ不思議と歩きたいという衝動にはかられない。それどころか
「噂程にも無い坂だ。こんなものか。」
と自分自身に言い聞かせながら最後の力を振り絞り力強く地面を掴み走る。
最後の2kmは下り坂。ゴール場所である競技場から音楽とゴールした選手のゼッケンナンバーと名前のアナウンスが遠くから聞こえる。108㎞から2名に抜かされたが、ゴール手前で1名を交わしこの一日夢に見たゴールのテープを切った。
ゴール!
最後は、目標の11時間以内には23分26秒届かずだった。
正直、あまり喜びの気持ちはわかなかった。もう少し出来たのではないかという気持ちが押し寄せてきたが、これもまた次を戦うための糧を得たと思い喜ぶことにしよう。
次戦 第25回星の郷八ヶ岳野辺山高原100㎞ウルトラマラソン サブ10(9時間45分以内)への挑戦
【記録】
11:23'26"
総合 27位
出走数 952人(男子853人 女子99人)
【2018出走率、完走率表】
【打ち上げ】
≫ 第29回チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン118km初参戦 サブ11(11時間以内)への挑戦 〜前編〜