第一回日光千人同心街道四十里ジャーニーラン161.6kmの旅 〜後編〜
羽田空港から八王子北口行きのリムジンバスに乗り、空港で買ったお弁当を食べながら宿泊ホテルシーズイン八王子に向かう。ここは宿泊費も安く、八王子北口から600mでスタート地点の興岳寺へも1.8kmと徒歩圏内。立地条件の良い場所を予約することができた。
天気予報は深夜から雨となり雨雲は北上する。それを辿るように北上し栃木県日光市がゴールとなるため、スタートからゴールまで昼夜雨に当たる可能性が高い。いつも雨であれば日差しで体力が消耗せず有難いと思い、どんな天候であってもその時のレースにとって一番良い天気だと思うようにしている。但し今回は地図を読みながらチェックポイント32か所を巡る走りとかるので、地図の防水対策だけはしっかりとしなければならない。八王子駅に着き、防水にマップケースを探したがあいにく売り切れで代わりに100円ショップでラミネートフィルムを見つけ購入する。これで雨対策は万全。夕食を済ませ、ホテルに着くと地図を確認しながらラミネート加工をする。
持ち物チェックをしながら明日のレース展開をイメージする。つい昨日までは、8時スタートで翌日の午前9時位までの25時間位でゴールとする予定でいた。正直なところ160kmを走り続ける自信が無かった。140km以上を走った経験が昨年の4月の萩往還140km、7月のみちのく津軽ジャーニーラン188km以来の長距離で、何よりも走るルートを迷いなく進んで行く自信も無かった。歴史を肌で感じ旅ランを楽しむのは勿論だが、来月チャレンジするみちのく津軽ジャーニーラン263kmやそれ以降のレースへ向けての自信も手に入れて帰りたい。そんな色々な葛藤もあり気持ちが定まらなかった。
色々と考えた結果、一番の懸案事項である道間違えの不安を無くすため上位者に付いて走ることに決めた。経験者の走り方を見て学ぶこともできる。今まで自分のペース以外で走ったことが無いため未知数なところもあり不安はあるが、自分の中の多くの問題は解決できる。心は決まり安心して眠りにつく。
スタート会場へ
いつもの通りスタート3時間前に朝食を取り雨の中スタート受付の興岳寺に向かう。受付開始の7時少し前に到着したが、既に多くのランナーが集まり旅の身支度をしている。そこにはポジティブな言葉しか聞こえず居心地がいい。
「自分を信じ思いっきり楽しんで笑顔で走り抜けよう。」
日光千人同心街道四十里ジャーニーラン161.6kmの旅へ 200人がスタート
東京都八王子市〜栃木県日光市
旅が始まった。ジャーニーランはマラソンやトレイルなどの大会と違って、基本コンセプトはタイムレースでは無いため全般的に和やかな雰囲気でレースが行われる。それでもタイム目標を持ち自分への挑戦をする人が多いのが実情だ。毎度、ウルトラマラソン界の有名人が上位を連ねその記録には驚くばかりだ。どんな大会も自分自身でそれぞれの目的や目標を持ち参加する。
スタート前に共に旅をする北海道のウルトラランナーと初面識で会話をさせて頂いた。全国の数々のウルトラの大会に出場し常に上位でゴールしている彼は、自分が来月臨むみちのく津軽ジャーニーラン263kmでは昨年3位。驚くタイムでゴールしている。ここで気持ちは大きく変わった。「行けるところまで付いて行きたい。」
予想以上に信号での停止が多く待ち時間が長い。一度信号で足止めを食らうと何百メートルも差が付き、前方者を見失ってしまう。チェックポイントは平均5kmおきに設定されており、道沿いに無いところもあるため一発で探し当てるのはとても難しいと感じた。3番手グループ7人程で走っていたがその大半は事前に試走でコース確認したり、試走をしないまでもチェックポイント(CP)の確認をしており、ほぼすんなりと目的地を通過して行く。
「はぐれてしまえば道に迷ってゴールできない。」
そんな不安が頭をかすめ、走る集団に歩調に合わせ進む。
チェックポイントに着くと大会の規定通り各自が写真撮影しなければならないのだが、雨の為スマホの画面が中々開かず焦る。CPの着時間は持参している所定の用紙に記載して行くのだが、雨で書けないため腕時計を都度撮影しゴール後に書き写すことにする。
あいにくの雨だが走り抜ける道には歴史を感じるものが多く、目にするものが新鮮で心が弾む。
【CP1(4.0km)小宮公園】 【CP2(8.4km)拝島宿】
【CP3(10.7km)日光橋】 【CP4(17.2km)箱根ヶ崎宿 大橋】
【CP5(19.6km)日本木宿 上宿道標】 【CP6(20.9km)入間市博物館】
【CP7(21.8km)扇町屋宿 上町道標】 【CP8(28.3km)根岸宿 日光脇往還標柱】
【CP9(33.6km)高萩宿 金毘羅大権現石碑】 【CP10(40.5km)坂戸宿 延命地蔵】
2つ目のエイドステーション(AS2)でもあるCP11(42.9km)地点に到着。今回の大会は約20㎞置きにエイドステーションが8か所用意されている。毎度15分程度しっかり休みながら補給を行い、気持ちをリフレッシュさせリスタートを切っている。笑いが溢れ皆楽しそうだ。時刻は12時55分。
【CP11(42.9km)高萩宿 昔を偲ぶ よすがの場所】
それにしても一緒に走っているグループは皆、どこまで行っても足取りが軽やかだ。走っていて多少の会話はしても身の上を話す人はいない。それでも20kmごとのエイドステーションにいるスタッフとの会話のやり取りを聞いていると少しずつ点と点が線になって行き、凄い実績の人ばかりということが明らかになって行く。1番手を行く北海道のウルトラランナーの快走も話題となっていて気持ちが高ぶって行く。
【CP12(46.4km)高坂宿 六地蔵】 【CP13(50.7km)松山宿 馬頭観音】
【CP14(60.5km)吹上宿 中山道、間の宿道標】 【CP15(64.2km)忍城】
【CP16(64.9km)忍宿 御本陣跡石碑】 【CP17(65.5km)船着き場跡碑】
【CP18(71.7km)新郷宿 御本陣「須永家」】 【CP19(74.3km)川俣宿 道標】
【CP20(80.4km)舘林駅東口/AS4」】
【CP22(89.8km)天明宿 群馬銀行前】
【CP23(92.8km)犬伏小学校】 【CP24(103.4km)富田宿 本陣跡碑】
100kmを越えた時点で19時53分となり走り出して半日が過ぎようとしている。すっかり辺りは暗くなり走る方向すらわからない。平常の毎日は田舎道を走っていて信号がほとんど無く走り出すと止まることがあまり無い為か、ジャーニーランのように幾度となく信号やチェックポイントで脚を止めると、脹脛に負担がかかり蹴り出しの度に痛みが走り速度が乗らなくなってしまう。雨は小1時間ほどだろうか、一時降り止み皆喜んだがそれ以外は降り続き場所によっては向かい風で顔に容赦なく叩きつけてくる。場所によっては歩道が冠水し、くるぶしの高さ以上ある水たまりを漕いで走り、時には通行車両が通る水しぶきを全身に浴びながら走り続ける。もうここまでくるとただただ笑うしかない。もう好きなだけ降れという気持ちになる。
ただ心配していた足のふやけによる水膨れが起きてしまった。両足の指の間の数箇所が蹴り出す度に痛み、明らかに水膨れとなっているのが感触でわかる。ワセリンを塗ってくればよかったのかなと少し後悔したが憂いてる暇はない。昨日夜にラミネート加工した地図はフイルムの隙間から雨水が侵入し、地図やチェックポイント一覧表すべてがボロボロになり見えなくなってしまった。持ち歩くのに丸めて胸ポケットに出し入れをしながら走っていたが、フィルムが剥がれて隙間が開いてしまっていたのだ。集団から離れるとチェックポイントを一人で探すことは出来ない。何よりも不安は一人になることだった。
いつしか集団も3人になっていた。エイドで2番手で走っていることを知らされる。
「ここからが正念場。残り60kmは全て上り区間。最も得意としている上りだ。」
そう自分に言い聞かせる。
ヘッドライトが降りしきる雨を映し出し辺りは何も見えない。雨音と、蛙の鳴き声がするだけだ。もうゴール以外に何を楽しめというのか。ここまできたら20時間以内。午前4時までにゴールしすぐに温泉に入り冷えた身体を温めよう。ただそれを楽しみに雨脚が更に強くなった坂道を走り続ける。
【CP25(109.4km)栃木宿 旧本陣「長谷川家」】 【CP26(112.7km)合戦場宿 道標】
【CP27(120.2km)金崎宿 旧本陣「古澤家」】 【CP28(125.1km)楡木宿「楡木山成就院」】
【CP29(120.2km)鹿沼宿 本陣跡公園】 【CP30(140.6km)文挟宿 延命地蔵】
100kmを越えてくるとチェックポイントまでの間隔が遠くなり5㎞間隔が10㎞間隔となり、信号も少なくなるため休みなくひたすら走り続ける。ひたすら我慢。この深夜の雨の中、人の家の前を数人で写真を撮っている。他人からみたらもう奇怪でしかない。それがまた愉快で仕方ない(笑)
一度にゴールまでの距離を考えると果てしなく心が折れてしまうので、20kmごとにあるチェックポイントを目標に走り続けてきた。最後のエイド(AS8)151.7kmの手前で常に前を走り引っ張ってくれた勇ましい人がコンビニに行くと言ったっきり戻らない。最後は3人でゴールしたいねと共に走ってきた青年と15分待ち続けたが戻らない。雨脚は更に強さを増し、スコールのごとく身に打ち付け体温を奪っていく。
「このままでは低体温症候になってしまう。残念だけどもう行きましょう。」
それと同時に100km付近まで一緒に走っていた女王が闇から姿を現し合流した。レースの序盤から一緒になり共に走っていたがその走るフォームやペース、エイドスタッフへの明るい立ち振る舞いに関心していた。
中盤までは国内の超ウルトラの由緒ある大会「2019さくら国際ネイチャーラン266km」で女性レコードを更新した総合5位に入った人だとは知るすべも無かった。その人は万全な状態では無いとは後から聞いたが、それでも大きな心の支えとなりここまで走ってこれた。今まで一緒にここまで走ってきた2人との出会いも宝であり、今後苦難を乗り越える上で大きな糧になるに違いない。そう思い残りの時間を惜しみながらゴールに足を進めた。
【CP31(151.9km) 今市宿 道標】 【CP32(159.8km) 日光東照宮入口】
161.6kmの旅のゴール
3人同着の総合2着でテープを切った。感動というよりはホッとした気持ちが大きかった。次につなげることができたという安堵の気持ちからなのかも知れない。
今回は経験者と並走し、その走りを学ぶことができとても幸せな出会いを頂きました。
運営スタッフや応援して下さった皆様、会社の皆に心から感謝します。ありがとうございました。
次戦
みちのく津軽ジャーニーラン 263km
【記録】
161.6km
19:49'00"
総合 2着
《本大会の結果》
- エントリー者数 222人
- 出走者数 184人
- 完走者数 106人
- 完走率 57.6%
【大会記録一覧】
「スポーツエイドジャパン」で検索頂くとのスポーツエイドジャパンのHPより「第1回日光千人同心街道四十里ジャーニーラン 記録」をダウンロードできます。
≫第一回日光千人同心街道四十里ジャーニーラン161.6kmの旅 〜前編〜