2023バックヤードウルトラ ラストサムライスタンディング(BULSS)福島大会に参戦
昨年初めてバックヤードウルトラ(Backyard Ultra Last Samurai Standing)という競技に挑戦をした。この競技は簡単に言うと決められたコース(6.706m)を1時間以内に走り、定刻1時間ごとにリスタートをし最後の1人になるまで競技が続けられるレースである。
⇒2022バックヤードウルトラ ラストサムライスタンディング)北海道に初参戦
2023年の今年は昨年の東京、福島、群馬、京都、島根、北海道に新潟大会が追加され全国7都道府県で同時刻に一斉にスタートとなる。
2022年、2023年の各地の優勝者(LastSAMURAI)と最も走ったアシスト者の合計15人が日本代表として2年に1度、10月に開催されるサテライト大会(世界大会/団体戦)に参戦することになる。2022年に開催されたこのサテライト大会では日本は世界第4位となった。
またこのサテライト大会で優勝した各国の優勝者が2年に1度、10月にアメリカテネシー州で開催されるBig’s Backyard Ultra(世界大会/個人戦)に出場となる。今年開催されたこの世界大会ではアメリカ選手が108Lap(108時間/724.2㎞)の世界記録で優勝、日本の森下選手が101Lap/677.3㎞で4位と健闘した姿に驚愕と感動を覚えた。
今年は来年のサテライト大会(世界大会/団体戦)に備えてよりLap数を重ね経験の得られる地区での参戦と考えていた。予定外だったのが昨年の北海道大会の優勝者についてはアメリカ本部への申請の手違いによりサテライト大会の参加は認められないと主催者から急遽連絡があったことだ。故に今回優勝(LastSAMURAI)する以外には来年のサテライト大会出場は絶望という状況。次回Big’s Backyard Ultra(世界大会/個人戦)が2025年10月に開催されることを考えると自身にとってはこれがラストチャンス。何れにせよ今の自分にはより多くの経験を身に付けなければその先は無いと考え、フラットコースでLap数がのび易く強豪選手がひしめく福島大会を選んだ。
今回の福島大会には、過去の東京大会、福島大会の優勝者(LastSAMURAI)の他、サテライト大会(世界大会/団体戦)出場経験者、昨年福島大会2位(アシスト)の選手の他、ウルトラマラソン、トレイルの大会で名を馳せる猛者達(北海道〜三重県)強豪28名が集結した。
※大会運営者が作成してくれた選手紹介写真
この大会の難しさは1時間ごとの定刻にスタートし、制限時間の1時間以内に走る距離が6.706㎞と決まっている点にある。1時間の制限時間内であれば走る速度は自由だがその時間の中には食事や着替え、トイレタイムなど全てが含まれる。1時間をどのように利用するかが重要になる。
この競技は自分が設定した目標に届くように事前準備を行い、競技中は己とただひたすら向き合い最善を尽くす以外に無い。昨年同様にまずは自身の目標を定め、休憩場所や食事の内容/量、着替え等のアイテム、ラップ(時間)毎の走行速度などを逆算で割り出すこととする。
目標は過去のレース結果などを鑑みて、96ループ(時間)/643.7㎞と決めた。
丸4日ともなると食料や水、着替えなど相当な荷物が必要となる。また過去のロングレースでの経験では2日間以上寝ずに走り続けると思考能力が薄れてくる。夜間は幻覚に襲われる。距離を重ねるごとに走行速度が減速し、これにより休憩時間が削られる。このため選手と共に戦ってもらうサポート者の役割はレース終盤に近づくにつれ重要度が増し大きな鍵を握る。
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想定した96時間の気温は1日目の日中こそ18度前後であるがそれ以降は0〜10度前後と低く、雨、暴風の予報もあり雪がちらつくことも予想される。着衣を一通り用意し、ひとまず天候での不安を解消する。
次に食事計画を立てる。過去の自分のレースを振り返り、食事時間を設定し食料を用意する。できる限り自分の好きな固形物を摂るようにし、胃腸不良や休憩時間が無くなることも想定しエナジージェルなども十分に用意する。
大会では選手はループを終えて、次のスタートまでの間はサポートクルーによるサポートを受けることが認められている。自らも長距離に精通したサポートクルー(サポート者)を選び、チームとして戦うことがより優位に働く。昨年同様に最も信頼の於ける仲間がこれを快諾してくれた。とても心強い。ループ毎に帰還する時刻を表に取りまとめこれにより自分は走ることのみに専念し次のスタート時間まで体力を温存する。天候に左右されないよう一定の室温が保たれた車内での休憩とする。
レース中はキャンピングカー(ツインズエース)をレンタカーで借りることにした。できるならばトイレ付にしたかったがトイレは付いていない。ガスコンロを持ち込みし煮炊きを可能にした。ルームライト、冷蔵庫、暖房は車載の予備バッテリーで稼働するため車のエンジンを停止して使用できる。使用したガソリンは50時間でおおよそ17ℓほどだった。予備バッテリーが無くなるとエンジンをかけ充電をする。
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レース前日夕方に現地入りをし会場を確かめた後に足りない物の買い出しを行う。その後、温泉に入り10㎞先の道の駅で車中泊をする。いよいよ明日レースが始まる。
11月23日(木)レース当日はスタート時刻2時間前の午前11時に会場入りをした。スタート地点近くの各選手に割り当てられる区画(5m×5m)場所の抽選を行った後に選手受付をし、大会説明を受ける。
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いよいよ自分との戦いが始まる。
「最後まで己を信じ続け最後の一人になるまで走り続けるのみ」
11月23日(木) 13時 28人がスタート
28人の侍が集結し、13時00分ラストサムライを決めるレースの幕を開けた。
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自身の状態は過去を見ても経験が無いほど厳しい。
1週間前のスピード練習5,000mTTで初めて太腿の裏の肉離れを起こした。整骨院で治療をしその3日後に脚の状態を確かめに体育館で軽く走ったが更に悪化させてしまいそれ以降走っていない。走ろうと少し速度を上げると痛む部分の筋肉が瞬間に硬直しロックがかかる状態。先生に聞くと脳信号でブレーキをかけているのだという。
今まではどんなに痛くても、睡魔に襲われ幻覚を見ようとも自身に打ち勝ってきたが、筋肉をロックされたのでは歩くことさえままならなくなる。この4日間は祈る気持ちで治療に専念してきた。DNSも検討に入っていたが今シーズンを全て棒に振ってでも一か八か挑戦したいと、負の感情は全て捨てここに来た。
「これはきっと試されている。無傷では済まないだろう、それでも最後の一人になるまで立ち続けていたい」
とにかくに慎重に丁寧に低速で走り、脳に刺激を与えない走りに徹する。
「どんな苦しみにも甘んじて受ける。だから頼むからレースが終わるまでは物理的に走ることができなくなるような余計なことだけはしないでくれ」そう懇願しなから走る。
夜が来て朝がきた。午前7時。スタートから18時間。距離は120㎞を越えてきた。
「ここまでこれたのだからきっと走ることを許されたのだろう。強制終了されることはもう無い」
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今回のコースは河川敷の築堤を2.5周して1Lap6.706mとなる。道は1本道なので同じ道を4回走る部分と6回走る部分がある。
無の境地で走り続けたいのだか、今自分が1周目なのか2周目なのか2.5周目なのかが意識付けをしていないと段々と解らなくなってくる。ここをを折り返したらあと半分などという明確な目標を見出しづらく、それよりも今自分は何周目なのかということを常に考えなくてはならない。個人的にこの単調で2.5周設定のコースは心理的なストレスが大きく何よりもきつい。打開策を見つけなければと思いながらLapを重ねる。
時間は3倍速で進む。今何時かとか、何キロ走ったかとか、何ラップ目かとかは気にしない。サポートの仲間には気温や風速などを聞き、汗冷えなどが無いように状況に合わせ着替えを行う。そして残り時間を聞き目を瞑りアラームで起きるということを繰り返す。
この長時間のレースではスタート時から72時間(3日目)以降のための体力温存こそが、自分には目標に到達する最大の要素と考えていた。車に戻ると予定の時刻には食事が用意され、衣類は温風で乾かされ小さな要望にも応えてくれる仲間がいる。眠れずともできる限り身体を休め後半戦のために温存するよう心掛ける。
「72Lap(時間)からが自分との戦い」
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2度目の夜
気づくと昼となり、そして2度目の夜を迎える。夜間の気温は2〜4度くらいだっただろうか。風速が5〜8m/Sと強く体感では0度以下に感じる。2日目の夜も昨晩同様に厳しい。
スタートから35LaP(時間)となる午前0時辺りから1時間ごとに1人、また1人と姿が消えて行く。すれ違うたびに声を掛け合っていた同士の姿が気づくとなくなっているのはとても寂しいものだ。走っていた幻影が見える。暗闇の静けさが増していく。
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2度目の朝
42LaP(時間)目には気づくと辺りは明るくなり始めている。2度目の朝を迎える。
夜間は多少の幻覚を見ていたが意識ははっきりしており眠気は無い。食欲は薄れているが固形物を食べれる状態でジェルは一度も使用していない。スタート時から経験の無い低速走行で脚の小さい筋肉の集中疲労を心配していたが問題はなさそうだ。肉離れを起こした反対の脚の疲労が強いが上半身でバランスを取りながら丁寧に走ればまだまだ行けそうだ。
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43LaP(時間)目に1人が脱落し2人の一騎打ちとなる。
「他者への期待はせずに自分自身に期待をする。自分がどこまで行けるのかワクワクする気持ちで最善を尽くす」
この気持ちは何も変わっていない。
「72Lap(時間)からが自分との本当の戦い」
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レースが始まってからこれまで多くの声援を頂き走る大きな原動力となってきた。運営スタッフの選手に対する激励や補給エイドでの温かい心配り。レースを成功させようとする熱い想いがひしひしと伝わる。たくさんの企業の協賛や差し入れ、ボランティアにより成り立っている。人との繋がりを強く感じる。本当にありがたい。長時間に渡り疲労困憊のはずなのに誰一人としてそれを見せず、選手の背中を押し続けてくれている。
「この思いに応えるには疲労を見せず少しでも多くのLapを走り続けること。Mさんあと少し2人で共に頑張り福島大会記録を伸ばそう」
そう心に思う。
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3度目の昼
13時00分。走り始めてから48LaP(時間)を迎え、走行距離は321.8㎞に到達する。共に走るMさんもしっかりとした足取りで、全く終わりは見えない。
Mさんとは何度が大会も共にしている。短距離から超ウルトラまで全てに於いて強く、取り組む姿勢も素晴らしい人で自分がウルトラを始めた当初より目標としてきた人だ。できるならばこのようなフィニッシャーかリタイアかの2択の場面で競い合いたくは無かった。
「お互い自分自身が納得し満足した形でこの大会を終えたい」
11月25日(土) 16時 51LaP(時間)
その時はあっけなく訪れた。Mさんが52LaP(時間)目を前にリタイアを申告。
自分は52LaP(時間)目をスタートした。この1周で勝利すると決まった瞬間喜びよりも、ゆっくりと深い眠りに付けるという安堵感が支配していた。
ウイニングランはとても長く感じた。これまでの51時間は自身にひたすら1Lap(6.706m)は短いあっという間の距離だと言い聞かせてきた。
最後の景色を目に焼き付けながらそして静かにゴールをした。
スタートから走り続けた51時間46分07秒。サポートと2人で戦った長いレースにピリオドが打たれた。
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【結果】
- 優勝(LastSAMURAI)
- 52LaP(時間)/348.712㎞
共に戦った選手の皆様、たくさんの応援をして頂いた皆様、大会運営をはじめ関係者の皆様には心より感謝いたします。
心温まる熱い大会でした。来年のサテライト大会(世界大会/団体戦)では福島大会代表として恥じない戦いができるよう精進して参ります。
ありがとうございました。
地元紙に掲載
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須賀川市(大会開催地)はM78星雲 光の国と姉妹都市
円谷英二監督を生んだウルトラマンの街ということで、大会前日の夜と終了翌日に見てきました。
<須賀川市庁舎前>
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<須賀川駅>
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<松明通り>
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<ひかりのまちひろば>
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<特撮アーカイブセンター>
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次戦
第15回東京・赤羽ハーフマラソン
⇒第15回東京・赤羽ハーフマラソン 77分切りを目指す挑戦
Big Backyard Ultra World Team championship 2024
⇒バックヤードウルトラ チャンピオンシップ2024(世界大会 団体戦)